第15回 日本放射光学会奨励賞 (2/2)


松波雅治 会員

自然科学研究機構分子科学研究所 極端紫外光研究施設

光電子分光と光反射分光を組み合わせた強相関電子系の研究

 松波雅治氏は、物性物理学の分野で最も重要なテーマのひとつである「強相関電子系の研究」に取り組んできた。松波氏の研究の特徴は、その電子状態を多角的に捉えるため、放射光を主たる光源として「硬X線・軟X線光電子分光」と「赤外-紫外光反射分光」を組み合わせて新たな情報を引き出した点にある。具体的には、強相関Yb化合物の電子状態の研究で大きな成果を挙げた。
 光電子分光の研究では、内殻光電子スペクトルに現れるサテライト構造の起源を、光反射スペクトルから得られる損失関数と比較する手法を提案し、解析を行った。その結果、様々な議論が行われてきた単体Yb金属とYbSにおけるYbのバルク電子状態における価数が2価であることをまったく矛盾のない形で証明した。さらに、YbSについて20GPaまでの圧力依存光反射スペクトルを測定し、4f電子状態が徐々に変化しながら伝導に寄与することを見出し、その圧力誘起絶縁体-金属転移のメカニズムを解明した。
 これらの研究を進めるにあたり、SPring-8の赤外ビームラインBL43IRにおける超高圧力下実験において中心的な役割を果たした点も高く評価できる。
 以上のように、松波氏の業績は、実験手法開発、解析手法開発の両面において新たな展開を示しており、放射光科学の進展における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分値するものである。

日本放射光学会
会長 尾嶋正治

2011年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.24 No.2(2011)