第12回 日本放射光学会奨励賞 (1/3)


若林裕助 会員

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所

放射光共鳴散乱を応用した軌道・電荷秩序の観測手法の開発研究

 若林裕助氏は、共鳴X線散乱、散漫散乱などを組み合わせることによって強相関電子系物質の軌道秩序・電荷秩序の研究を行ない大きな成果をあげている。共鳴X線散乱は、強相関系物質の軌道秩序を観測する実験手段として広く用いられているが、その観測の機構については論争があった。若林裕助氏は、実験的観点から共鳴X線散乱の機構の解明に取り組み、共鳴X線散乱が、当初考えられていたような電荷の異方的分布による現象ではなく、電荷分布の異方性を反映して現れるヤーン・テーラー歪による現象であることを明らかにし、異方的電荷分布をもつ物質の構造物性の解明に対する共鳴X線散乱の適用法を確立した。さらに、この手法を適用して、金属絶縁体一次転移を示すマンガン酸化物薄膜の歪モードによる軌道秩序の形成のメカニズムを明らかにすることに成功した。また、若林裕助氏は、金属イオンの価数配列が三次元秩序を持たず一次元鎖内でしか秩序化していない有機物質の鎖内の価数配列を、散漫散乱強度の空間分布状態とエネルギースペクトル依存性によって決定することに成功し、低次元秩序しかもたない物質の電荷秩序構造を決定する手法を確立した。
 以上のように、放射光の回折実験による電荷秩序・軌道秩序の研究に新たな展開を付与した若林裕助氏の功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、また、今後の発展が期待できる若手研究者である。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

2008年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.21 No.2(2008)