第14回 日本放射光学会奨励賞 (2/3)


田中真人 会員

独立行政法人 産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門 光・量子イメージング研究グループ

生体分子の放射光円二色性分光研究

 田中真人氏は,カイラルな構造を持つ生体分子の軟X線・真空紫外領域における円二色性の観測に成功し,学問的にも技術的にも未開拓であった放射光自然円二色性研究の分野を先導し切り拓いている.
 多くの生体分子が持つカイラリティーは,生体分子の機能に根本的に重要な役割を担っている.このため,可視・近紫外領域での円二色性がタンパク質の二次構造を調べる手段として日常的に使用されてきたが,真空紫外領域から軟X線領域にかけての円二色性の観測は未開拓であった.田中氏はSPring-8 BL23に設置された左右円偏光切り替え可能なヘリカル・アンジュレータを用いて,軟X線領域におけるアミノ酸の円二色性に世界で初めて成功した.田中氏はさらに,産業技術総合研究所TERASにおいて,生体分子の円二色性の研究を真空紫外領域にも拡張している.軟X線領域の円二色性の研究は従来理論が先行していたが,田中氏の実験がきっかけとなって理論家を刺激し,理論と実験が同時進行する時代になっている.
 以上のように,生体分子の放射光円二色性分光研究における田中真人氏の研究業績は大きく,日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり,今後の一層の発展を期待するものである.

日本放射光学会
会長 尾嶋正治

2010年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.23 No.2(2010)