第13回 日本放射光学会奨励賞 (1/3)


唯美津木 会員

分子科学研究所 物質分子科学研究領域 電子構造部門

in-situ時間分解XAFS法を駆使した触媒化学の革新

 唯美津木氏は、「最も困難な10の触媒反応」の一つに挙げられる、酸素分子を用いたベンゼン直接酸化によるフェノール合成を、高活性・高選択的に実現する新型担持レニウム触媒を開発した。この反応を継続的に進行させるためにはアンモニアが必要とされるが、XAFS法を用いて触媒反応中における触媒活性種の構造変化やアンモニア分子の果たす役割を分子レベルで解明した。In-situ条件下における時分割リアルタイムdispersive XAFS実験では、Re10 核クラスターが酸素と反応する過程において、準安定な中間化学種が存在しないことが、触媒反応における高活性、高選択性の要因であることを示した。また、time-gating Quick XAFS法を開発して、実燃料電池の作動条件下におけるカーボン担持白金ナノ粒子カソード触媒の酸化還元挙動を1秒の時間分解能で捉え、リアルタイムdispersive XAFS法では4msのリアルタイム計測を実現し、同時に起こると考えられてきた電気化学反応と白金触媒の構造変化の間に明確な時間差が存在する新しい現象を見出した。さらに異常電圧を印加した時の白金の溶出過程の解明にも貢献した。
 以上のように、種々のin-situ時間分解XAFS法を駆使して行われた研究は触媒化学研究のみならず、化学反応全般に新たな展開を付与するものであり、唯美津木氏の放射光科学における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、今後の一層の発展を期待するものである。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

2009年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.22 No.2(2009)