第11回 日本放射光学会奨励賞 (3/3)


宮島司 会員

高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所

非線形共鳴近傍における位相空間中でのベータートロン振動の研究

  近年第三世代を始めとする放射光光源では、積分輝度の増強や光学素子を熱平衡状態で使用することで測定精度の向上を目指すトップアップ入射の導入が不可欠に成りつつある。しかし、この方式は放射光ビームラインシャッターを開け、かつ挿入光源のギャップを閉めた状態で電子ビームを入射するため、実験ホールでの放射線安全の確保と挿入光源での永久磁石の減磁の抑制の2点から入射時のビーム損失を極力抑えることが重要となる。
   このビーム損失を引き起こす要因としては、強い6極電磁石による電子ビームの低エミッタンス化や挿入光源の高機能化で持ち込まれる非線形誤差磁場とリングを構成する各種電磁石の非線形誤差磁場で、これらが電子ビームの水平・垂直方向の運動を規定する。そのため、これら非線形磁場の強さおよび分布を正確に理解することが重要となる。
   宮島司氏は、これら非線形磁場で誘起される電子ビームの運動が、非線形共鳴近傍で強調されることに着目し、高速キッカー電磁石と位相空間モニターを用いて、これら共鳴を誘起する微小な非線形項の強さを導出する新しい方法を開発した。この方法は、トップアップ入射時のビーム損失に寄与する非線形共鳴ラインの同定、さらにはその共鳴線の補正方法の確立、そして電子ビームの更なる高精度化(低エミッタンス化、低カップリング化)技術の確立に今後大きく貢献するものと期待される。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

2007年 1月

受賞研究報告 学会誌 vol.20 No.2(2007)